マドリードのティッセン・ボルネミッサ美術館は個人のコレクションだったとは思えない豊富な量と素晴らしい質を備えた美術館。マドリードのこの地区はプラド美術館とソフィア王妃芸術センターとティッセン・ボルネミッサ美術館で黄金の三角地帯を形成している。マドリードには大小合わせて90個の美術館・博物館がある中この3つの美術館は絶対外せないマドリードのアート・スポット。是非とも訪れてアートに浸ってみてください。今日はティッセン・ボルネミッサ美術館についてご紹介します。
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ティッセン・ボルネミッサ美術館マドリード
ドイツの鉄鋼財閥ハインリッヒ・ティッセン・ボルネミッサ男爵とその息子のハンス・ハインリッヒ・ティッセン・ボルネミッサ男爵(どちらも故人)の2代にわたる個人のコレクションでプライベート・コレクションとしてはイギリスのエリザベス女王の物に次ぐ世界第2位のボリューム。古典絵画から近代絵画にいたる幅広いコレクションが特徴で13世紀から21世紀の8世紀にわたる西洋美術史をここで堪能することが出来る世界でも数少ない美術館です。
*毎週月曜日は12時から16時まで無料。12時に開館になり随分並んでいますが13時30くらいなら並ばずに入ることが可能です。本来の休館日にマスターカードの協力で無料で開放しています。
ビジャ・エルモサ宮殿
ティッセン・ボルネミッサ美術館の建物は元は19世紀の貴族のお屋敷ビジャ・エルモサ宮殿。その後一旦銀行家に購入されたが後にスペイン政府に売却されプラド美術館の管轄になり特別展などに使われていた。
<マドリード、ティッセン・ボルネミッサ美術館入り口>
その後ティッセン・ボルネミッサ・コレクションのスペイン政府へ誘致の話の折にこの建物を提供することでティッセン男爵と交渉がまとまる。ティッセン側は同時にヨーロッパの他の都市とも交渉しており特にロンドンは有力候補地だったが展示場のロケーションではマドリードが断然有利、中心部でプラド美術館の至近距離でありエレガントな建築物を提供で決定に至った。
建物の改装はスペイン人建築家ラファエル・モネオ氏によって1990年3月に行われ1992年700点のティッセン男爵のコレクションが運ばれた。その後1993年にスペイン文科省にティッセン・コレクションは売却された。ハンスハインリッヒ氏は5度の結婚をしておりこれらの絵画や財産の遺産相続で揉めていた。彼と父親のコレクションがバラバラにならないようにというティッセン男爵の願いで売却にいたる。
<マドリード、ティッセン・ボルネミッサ美術館入り口>
敷地内に入りカフェテリアとブックショップ、入ってすぐのサロンまでは入場券なしで入れます。ブック・ショップは楽しいものがいっぱいありムージアム・ショップとしてはレベルが高い。スカーフやネクタイ、文房具品や食器、アクセサリー等素敵なお土産が見つかる。(写真下)
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館ショップ>
ティッセン・ボルネミッサ美術館内部
*写真撮影可能(フラッシュ無し)で手荷物検査も無しです
*日本語のオーディオガイドが出来ました。5ユーロで簡単な説明ですが50点の作品を説明を聞きながら回ると事が出来ます。
切符を買うとこの大きなホールを進んでいく(写真下)。ここまでは切符が無くても入れます。広々したホールはスペイン人建築家ラファエル・モネオ氏の改築。
<マドリード、ティッセン・ボルネミッサ美術館内ホール>
少し先の右側に切符の検査が有るのでそこで購入した切符を見せるとエレベーターで2階へ上がりましょう。建物は3階建てで0階1階2階となります。時代順に上から下へ展示されていますので古いものから順にみていくとヨーロッパの美術史全体を把握できます。20世紀美術にいきなり行く場合は切符の検査ある地上階フロア―に展示されています。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館エレベーター>
2階から=イタリア、プリミティブ絵画
ティッセン・ボルネミッサ美術館は時代ごとに展示されているので2階から1階そして0階と順番に見ていくと13世紀から現代にいたるヨーロッパの美術史を時代を追って鑑賞できる。最初の部屋はイタリアのプリミティブ絵画、13世紀の聖母像や未だ遠近法を知らなかった時代の素朴な作品が展示されている。
下の作品は板絵。1290年頃のフィレンツェの教会の物。教会建築がロマネスクからゴシックに移行した頃にこういう板絵が描かれるようになった。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館イタリア13世紀>
中世の世界は全て神様によって支配されていた頃の教会の祭壇画。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館イタリア13世紀>
ドイツの中世絵画
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館ドイツ中世>
(上)ドイツの中世の画家の作品でイエスキリストの弟子達が当時の普通の家の中で書き物をしていたり奇跡が起こったり、家の中の道具やテーブルなどが丁寧に描かれている。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館ドイツ中世>
(上)ドイツ中世絵画の聖人シリーズの一枚。聖マルコが福音書を書いているところ。無心に書いている感じが伝わる。部屋にある家具や置物が当時のドイツで家庭にあったのかと思わせる。
フランドル絵画
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館ヤン・ファン・アイク>
ヤン・ファン・アイクの受胎告知。小さな作品ですがティッセンボルネミッサ美術館のコレクションの最高の物のひとつ(私個人的に一番好きな作品です)。グリザイユで丁寧に描かれた彫刻の影と布地の量感等が素晴らしい。絵のサイズが解るように部屋の全体像も入れてみました。ヤン・ファン・アイクは顔料に少し油を混ぜた最初の画家で色に透明感を手に入れた初めての画家。柵も無く絵に近づけるので近くで鑑賞できる。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館フランドル>
こんなに小さな作品でこっそり隠して持って帰れそうなくらいです。この辺りは同時代のフランドル絵画が展示されています。
ルネッサンス
ドメニコ・ギルランダイオの「ジョバンナ・トルナブオーニの肖像」はティッセン美術館で一番有名な作品。ここからルネッサンスに入り人間が描かれるようになった。ギルランダイオは15世紀後半にフィレンツェで活躍した画家でミケランジェロの師匠にあたる。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館ネッサンス>
(上)板にテンペラ画、横顔の肖像画としては最高に美しい宝石といえる作品で衣装の豪華さや宝石等輝いている絵画。ジョバンナトルナブオーニはフィレンツェのメディチ家のロレンツォ・デ・トルナブオーニと結婚。この絵はジョバンナトルナブオーニが亡くなった後注文されたもの。後ろの背景に聖書とサンゴのロザリオが描かれ信仰をほのめかしている。
(下)ホルバインのヘンリー8世イギリス王。次々と妻を取り替え処刑したりロンドン塔へ送ったイギリス王。最初の結婚はイサベル女王の娘カタリーナ。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館>
皮肉にもヘンリー8世の隣にカタリーナの肖像画が置いてある。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館>
カタリーナ・デ・アラゴンはスペインのイサベル女王の娘で切望されイギリス王に嫁ぐが侍女のアン・ブリンが気に入ったヘンリー8世により離婚される。離婚が許されないカトリックでローマ法王からヘンリー8世は破門され英国国教会が作られた。カタリーナは最後までプライドを保ち凛々しく過ごした。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館ラファエル>
ラファエルの描いた少年。沢山の作品の中でも目を引く綺麗な絵でティッセン男爵個人の審美眼がうかがえる。こちらを振り返ったばかりの視線、髪の巻き毛も美しい。小さな作品なのですぐ近くで画家の筆のタッチまで見ることが出来ます。
ベネチア絵画
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館ベネチア>
ここはエル・グレコとベネチア絵画。エルグレコはベネチアで絵を修行した。初期の受胎告知と晩年の物が並べておいてあるので作風の変化が良くわかる。
スペイン17世紀絵画
ジュゼップ・デ・リベラのキリストの埋葬。晩年の作品でタッチが柔らかくぼかした技法。聖母の悲しむ表情、明暗法とドラマチックな場面がカラバッジオを思わせる。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館リベラ>
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館スルバラン>
(上)フランシスコ・デ・スルバランの聖女シリーズの一枚で聖カシルダ。スペインの17世紀の巨匠のひとりスルバランは美しい聖女を等身大で何枚も描いている。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館カラバッジオ>
カラバッジョのサンタ・カタリーナ2019年修復が終わったばかりの作品。聖女がふっと振り向いたばかりのドキッとする様な視線、豪華な衣装と膝のクッションに位の高い人物である事がわかる。車輪は聖女の殉教に使われた道具。
オランダのバロック期レンブラント
オランダの画家レンブラントの自画像。オランダ絵画の黄金期に活躍したレンブラントの1642年頃の作品なので有名な「夜警」が描かれた同時代の作品。レンブラントは他に例を見ない程の自画像を描いている。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館レンブラント>
この頃は裕福だったレンブラントだが彼は晩年財政難この絵の約15年後には自宅を売却することになる。
1階はオランダ絵画から印象派等
<マドリード、ティッセン・ボルネミッサ美術館オランダ風俗画>
16世紀頃のオランダ絵画は楽しいものが多い。当時の民衆の生活や居酒屋、楽器も持った人々や子供達等が生き生きと描かれている。この時代スペインではキリスト教の厳格な絵画しか描かれていなかった宗教改革の真っただ中、対抗宗教改革が行われ魔女裁判や異端審問所が活躍していた。オランダでは裕福な商人たちによって民衆の生活の様子の作品の注文が有った。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館オランダ風俗画>
ダビッドテニエルの風俗画の部分を拡大。居酒屋で集まる庶民の話声が聞こえてくる。オランダの作品は楽しい。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館オランダ風俗画>
(上)ヤン・スティーン、田舎の結婚式の部分を拡大。楽器を持った人が演奏していて楽しそう。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館オランダ風俗画>
(上)ダビッド・テニエールの田舎のお祭りの部分。酔っ払いが倒れていて介抱している人やヤレヤレと話している人や騒々しいお祭りの雰囲気が伝わって来る楽しい作品。
フランス絵画から印象派へ
印象派は人気がありこの美術館でも鑑賞する人が多いコーナー。エドゥアルド・マネ、ビンセント・バン・ゴッホ、トゥールーズ・ロートレック、クロード・モネ、エドガー・ドガ等豊富に楽しめる。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館マネ>
(上)エドゥアルド・マネの亡くなる前年の作品で「正面からのアマソナ」
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館ロートレック>
(上)ロートレックの男性
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館ドガ踊り子>
(上)ドガの踊り子、くるくる回っている美しいバレリーナ。いつも人でいっぱいです。
地上階0階
地上階に降りると20世紀のコレクションが納められています。ピカソやブラックのキュービズムからアンディーウォーホールやロスコ―等の現代絵画が展示されています。
キュービズムを同時にブラックとピカソが始めた。ほぼ同時期に楽器を持つ人物をブラックとピカソが描いている2枚が隣同士に並んでいる。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館キュービズム>
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館ブラック>
(上)キュービズムで描かれたブラックのマンドリンを弾く女性。マンドリンを弾く手が動いているのが見える。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館ピカソ>
(上)同じころにピカソがキュービズムで描いたクラリネットを弾く男。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館ミロ>
(上)ミロの構造という名の作品、ブルーが綺麗でした。説明不可能。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館ピカソ>
(上)ピカソの鏡を見る道化師。1923年の作品。
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館>
(上)マルク・シャガールの鶏。シャガールはユダヤ系ロシア人の画家で後にフランス国籍を取得。一旦故郷へ戻った後にパリで描いた作品。随分毒舌家で知られた人物だが作品はメルヘンで可愛い。
アメリカ現代絵画
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館>
<マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館>
マーク・ロスコ―の無題。ロスコーはユダヤ系ロシア人でアメリカで活躍した。ロスコーはアメリカ現代絵画の画家、フロイトやユングに没頭し無意識の世界に興味を持っていた画家。大きな作品の前で深いロスコーの色を見つめていると瞑想の世界へ連れていかれる様な錯覚を覚える。66歳で私生活の問題や病気で悩み自殺している。
近代絵画は殆どが息子のティッセン男爵のコレクション。拡張部分に妻のカルメンティッセンのコレクションも展示されている。
マドリード、ティッセンボルネミッサ美術館を動画でご案内します。
行き方
地下鉄:5号線バンコデエスパーニャから徒歩10分又は2号線セビージャから徒歩10分
バス:マドリードの街を縦に走るカステジャーナ通りからの場合14番27番のバスが直ぐ近くに止まります。
プラド美術館斜め前:ネプチューンの噴水をはさんで斜迎え側。
ティッセンボルネミッサ美術館・開館時間や値段
住所:Paseo del Prado 8
常設展:火曜日から日曜日 10時から19時
値段:12ユーロ オーディオガイド:5ユーロ
美術館共通チケット「パセオデルアルテカード」29ユーロ60セント。プラド美術館、ソフィア王妃芸術センター、ティッセンボルネミッサ美術館の共通切符
毎週月曜日 12時から16時まで無料
毎週土曜日:特別展時間延長10時から21時
休館日:1月1日、5月1日、12月25日
*ティッセンボルネミッサ美術館公式ページです。特別展などはこちらから調べてください。
最後に
ティッセン・ボルネミッサ美術館は個人のコレクションとは思えない程の作品の質と量で約800年にわたるヨーロッパの美術史を楽しめる美術館です。この記事では筆者の個人的な好みで作品を紹介しましたが素晴らしい作品がまだまだ沢山有ります。月曜日は無料なので私はなるべくその時のお邪魔しています。絵画好きにはたまらない素晴らしい作品をすぐそこまで近づいて鑑賞できる美術館で写真も撮れるのが有りがたいです。マドリードで時間があればプラド美術館からすぐ近くなので是非とも楽しんでください。
個人のコレクションとは思えない質と量、もちろん財力は当然ですがティッセン男爵の絵画に対する愛情が感じられるコレクションです。