長い長い旧約聖書を読んでいくシリーズです。旧約聖書の天地創造からアダムとイブの物語、洪水の物語までを前回までにまとめたが物語は時間の霧の中にあり歴史としての定義はまだまだ不明だ。ここでは続いてアブラハムと神の契約の物語。
アブラハムについては考古学上の発見や聖書に出てくる地理的位置が正確なので実在した人物となっている。アブラハムの物語は滅茶苦茶に長いので三部に分けることにしました。その一はアブラハムの神との契約です。
旧約聖書・アブラハムと聖なる契約の物語
アブラハムはキリスト教ユダヤ教イスラム教を信仰する啓典の民の始祖
ノアの洪水のあと神から祝福を受けた最初の人間が「アブラハム」という人物で今回の主人公。アブラハムはユダヤ教だけでなくキリスト教イスラム教を信仰する「経典の民」の始祖として今も崇められている。
*「経典」とは神の啓示すなわち神の言葉。神の言葉が書かれた書物=旧約聖書、新約聖書とコーラン。
実はアブラハムはノアの子孫。あの「ノアの方舟」のノアには3人の息子たちセム、ハム、ヤペテがいた。3人のうちのセムから数えて10代目がアブラハム。ノアはアブラハム2歳の時没したとなっているのでノアはすごい長寿でびっくりだ。そしてノアはアダムとエバの子孫なのでアブラハムもアダムとエバの子孫となりその後ダビデ、ソロモン、イエス・キリストまでこの血筋は繋がっていて、これまた凄い。
旧約聖書アブラハムの物語
では旧約聖書を読んでいきます。
メソポタミアの地カルデラのウルにアブラム(まだ彼の名はアブラハムではなくアブラム)という男が住んでいた。
*ウルがどこなんだろうと調べてみたら南部説と北部説があるらしい。
ウルの場所は今もメソポタミアの南部説と北部説がある(下地図参照)地図は大体の位置です。
裕福な遊牧民の家に生まれた彼は美しいサライ(まだ彼女の名サラではなくサライ)という名の女と結婚した。彼女はとても美しかったが子供が出来なかった。夫も妻も子孫を残せない事を残念に思っていた。
*アブラハムの時代のメソポタミアはシュメール文化の時代。シュメール人はメソポタミアで最初に文明を築いた謎の民族。美術、数学、天文学、建築、が発達しており文字や文学に学校まだあった高度文明だった。
アブラムの父はテラという。テラはアブラムとその妻サライとロトを連れてウルを出てハランに移動しそこに住んだ。アブラムの父テラはそこで205歳の一生を終える。えっ205歳?旧約に出てくる人たちは長寿だ。
神の声「この土地を捨てて私が示す地へ行きなさい」
神はアブラムに言われた。
「故郷と親戚とおまえの父の家を離れて、私が示す地に行きなさい。私はお前に沢山の子孫を与えよう。彼らは偉大な民族となる。私はお前を祝福し、お前の名を高めよう。祝福の源となるように。私はお前を通してこの民族を祝福しよう」
アブラムは神の言葉に従った。
ということでアブラムは快適な暮らしを捨てて神の声に従い放浪の旅に出たのだ。しかも75歳。妻サライと弟の子供ロトと集めた全ての財産と人々を従えてカナンまで移動した。妻もよくついて行った、感心。
*カナンの地とはどこなんだろうと調べてみたら、現在のパレスティナとイスラエル。地中海とヨルダン川、死海に囲まれた一帯で、乳と密の流れる場所と聖書に描写される。カナンに住むカナン人はフェニキア人との説がある。まさに紛争の地でここにイスラエルを建国したというわけだ。
***歴史のお話・パレスチナ問題***
神がアブラハムに「あなたの子孫に与えるといったカナンの地」はユダヤ人にとって「約束の地」。その後カナンは様々な民族に支配されるが「出エジプト紀」にあるようにモーゼはエジプトからユダヤ人を連れて出て「約束の地、カナン」に戻った。
紀元前1095年には国を作り栄えるがソロモン王の死後、内紛が起こりイスラエル王国とユダ王国に分裂。
後イスラエル王国はアッシリアに滅ぼされ(紀元前722年)ユダ王国はバビロニアに奴隷にされる(紀元前588年)。
もう一度国を再建するがローマ人により(紀元前70年頃)国を破壊されカナンから追い出され、その約1900年後1948年約束の地パレスチナにイスラエルを建国した。後ろに英米独仏の複雑で利己的な(特にイギリス)の醜い取引があったのは周知の事実。
神あらわる
神は又してもアブラムに現れて言われた。(神はこの後も何度も現れる。)
「私はあなたの子孫にこの土地を与えます」
アブラムは彼に現れた神の為にそこに祭壇を築いて神の名を呼んだ。
が、その土地が飢饉になったのでエジプトへ移動した。
アブラム、エジプトへ
エジプトへ入ろうとしたときアブラムは妻サライに言った。
「あなたは大変美しいのでエジプト人には私の妹と言ってください。妻だと言うと私はエジプト人に危険な目にあわされるでしょう」
エジプトに入るとやはり人々はサライを美しい人であると褒めた。エジプトの王の高官たちもサライを褒めたので王の家に招かれた。そしてエジプトの王はサライの兄であるというアブラムに多くの羊、牛、ロバや奴隷やラクダを与えた。
アブラハムはあっさり妻をエジプトの王に差し出すつもりだったという事?そしてその見返りにエジプト王から沢山の見返りをもらっている。これは美談なのか、旧約聖書は難解だ。
神はエジプトに疫病を下す
ところが神はアブラムの妻サライがエジプトの王の家に入った事に怒り、エジプトの王ファラオの家と王家に激しい疫病と災難で痛めつけた。
エジプトの王は全てを悟り(神はアブラムの側にいる事を知る)アブラム一行を全ての持ち物とともにカナンの地へ送り出した。
聖書の記述
「あなたは私になんという事をしたのですか。なぜ彼女があなたの妹と言ったのですか。私は彼女を妻にしようとしていました。さあ、あなたの妻はここにいます。連れて行ってください」
「先に言っといてくれたらこんなひどい目に遭わないのになんで嘘つくの?」ってことでファラオが正しい。
アブラム、エジプトを去る
アブラムは妻と全ての持ち物を持ってエジプトを出てネゲブに戻った。甥のロトも従った。
アブラムは家畜や金銀にと大変豊かになっていた。彼はネゲブから旅をすすめぺテルへ向かい、ペテルとアイの間の最初に祭壇を造った所へ戻り祈った。
ところがここは土地が狭くてアブラハムもロトもたくさんの家畜や奴隷や財宝があって牧者の間で争いが起こるようになった。
アブラムはロトに提案「別々の道を行こう」
アブラムはロトに言った。これ以上揉め事が起こらないよう別の道を行こう。目の前に大きな土地が有るではないですか。
「どうかわたしと別れてください、あなたが右に行けば私は左に、あなたか左に行けば私は右に行きます」
ロトがヨルダンの低地を見渡すとそこは豊かで良く潤っていた。そしてその地を選び取ってヨルダン川東側へ移った。そこは神がソドムとゴモラを滅ぼす前だったので豊かで潤っていた。ロトはソドムへ移動したがソドムの人々は悪く罪深かった。
ソドムとゴモラは実在した?
有名な悪徳の街ソドムとゴモラは近年の考古学的な調査で実在したことは確からしい。ソドムもゴモラも大きな都市遺跡らしきものが残り大変繁栄していたようだ。
遺跡の成分を調査すると遺跡が硫酸カルシウムで出来ているらしく、硫酸カルシウムは石灰岩が硫黄で燃やされたときに出る副産物だという。そしてその遺跡の中から純度が高い硫黄の玉が沢山発見されているという。
聖書と史実については今も研究が続けられているがこの辺りに非常に高度な技術の大きな街があったことは確かで災害か何かで滅びたことはどうやら間違いないらしい。
アブラムに神の言葉「あなたの子孫は未来永劫栄えます」
聖書に戻ろう。
神はアブラムに現れて言われた。
「さあ、目を上げてあなたのいるところからすべての方角を見なさい。
あなたが見渡す地は全てあなたとあなたの子孫に与えよう。
私はあなたの子孫を地のちりのように増やす。
もし人が地のチリを数えることが出来ればあなたの子孫も数える事ができるだろう。
立って、その地を縦と横に歩き回りなさい。
私があなたにその地を与えるのだから」
こうやって神はアブラムにとにかく見渡す限りはあなたの土地で子々孫々にわたる未来永劫の繁栄を約束したのである。
アブラハムは天幕を移してヘブロンにあるマレムの樫の木のかたわらに住み主の祭壇を築いた。
*ベブロンは何処だろう?と調べてみた。ヘブロンはパレスティナ自治区、アブラハムのお墓があるユダヤ人の聖地なので現在対立の過激なところらしい。マレムの樫の木は現存するらしく現在はロシア正教会の敷地内にあるという。
しかしアブラムは75歳になっても子供に恵まれなかった
神はアブラムとその子孫が繁栄するというがこんなに高齢で子供もいないのにいったい・・・という対話が続く。旧約聖書はくどい、同じ話が繰り返し繰り返し続く。
アブラムは神に言った。
「主なる神よ、私には子がないのにあなたは私に何をくださろうとするのですか」
すると神はアブラムを外へ連れ出して言われた、
神の言葉
「天を仰いで星を数える事ができるなら数えてみるがよい。
あなたの子孫はこのようになる」
神は75歳の子供がいないアブラムの子孫が星の数ほど増えるというのだ。
アブラムはいくら神の言葉でもそんな事はありえない、と思ったに違いない。
アブラムは妻の奴隷のハガルとの間に子供
アブラムの妻サライは高齢で子供を持てないので奴隷の女ハガルをアブラムに与えた。
これは当時の風習では珍しいことでは無かったという。
一説によるとエジプトから出た時に連れきた女性がハガル。エジプトの女奴隷ハガルはアブラムの子を宿すとサライを見下すようになった。思いあがって態度が大きくなったのだ。どこにでもありそうな話だ。
サライはアブラムを責める。「あなたが彼女を必要以上に重んじたからこうなった」「アブラハムあなたが悪い〜キーーッ」となったのでアブラムはサライに「お前のいいようにしなさい」と突き放した。
するとサライはハガルを思いっきり苛めたのでハガルは逃げ出した。
これもどこにでもありそうな話だ。
下の絵はルーベンスが描いた家を出ていくハガルの場面。サライは怒っていて手を振り上げている、アブラハムは天を見上げて困っている。
荒野の泉で途方に暮れているハガルのところに神の使いがやってきて話しかけた。
「あなたは女主人の元に戻りなさい。あなたは男の子を産むでしょう.その子にイシュマエルと名付けなさい」
その時アブラムは86歳。
アブラハム99歳、神と契約をかわし「アブラハム」と改名
アブラハム99歳、再び神が現れた。このときにアブラムの名はアブラハム、サライの名がサラとなる。
「私は全知全能の神である。私はあなたと契約を結び大いにあなたの子孫をふやすであろう」
「私はあなたと契約をむすぶ。あなたは多くの国民の父となるであろう。あなたの名はもはやアブラムとは言われずアブラハム。あなたの妻の名はサライとは言われずサラ。私は彼女を祝福しあなたに一人の男の子を授けよう。その子をイサクと名づけなさい」
アブラハムは心の中で「もう100歳なのに子供ができるわけがない。妻のサラも90歳になってどうして子供を産むことができようか」
アブラハムは神は勘違いしていて息子のイシュマエルの話をしている?と思った。
が、神は言われた。
「いや、あなたの妻サラはあなたに男の子を産むでしょう。名をイサクと名付けなさい。私は彼と契約を立てての地の子孫のために永遠の契約としよう」
アブラハムの物語その後
アブラハムの物語は長くこの後三人の天使が現れたりソドムとゴモラが滅亡したり、ついに息子が産まれたり。そしてその大事な息子イサクを犠牲にしなさいと神に言われる。とっても長いお話の第一話はここで終了です